万治くらぶ/第270号
万治くらぶ

第270号

2008/04/20

▲万治なんでも雑記帖(80) 釉木淑乃 急逝

 永倉有子さんからメールを頂いた。

 14日の朝、永倉万治の妹、釉木淑乃さんが急逝されたという。

 突然の訃報に言葉もない。

 ご家族の皆様に謹んでお悔やみを申し上げます。


 釉木さんの入院前後の様子は彼女の友人のブログ「三途乃川の水嵩」 にある。

 ≪知人の小説家の釉木淑乃さんが14日に療養中の朝霞台中央病院で亡くなったと妹から電話があった。
 妹にとっては青山学院中等部に入学して以来の親友だった。
 われわれは「ながちゃん」と呼んでいた。
 先週になって、「なが」のお姉さんから電話があって、入院しているという話を聞き、4月10日に学生当時から仲の良かった友人たちと一緒に見舞いに行ったという。

 病名は膵臓癌。腹部全体に転移していて腹水が溜まり手が付けられない状態だったというが、本人は意識はしっかりしていて、冗談なども口にして友人たちを笑わせていたというのに。
 それから5日後には帰らぬ人となってしまった。
 あまりにも突然の、早過ぎる死だ。
 妹は電話の向こうですすり泣いていた。
 家族は今年になって急激に体重が落ちていくのが気掛かりだったというが、入院した時には遅きに失した感がある。
 なぜもっと早く、少なくとも3ヶ月前に病院に掛かっていればと、悔やんでも悔やみきれない。≫


 彼女の略歴は『ケンタウロス座』ほかにある。

 釉木淑乃(ゆうき よしの)
 ≪1955年10月3日 天秤座 埼玉県志木市に生まれる。
 青山学院高等部卒業後、ミール・ロシア語研究所でロシア語を学ぶ。
 科学技術翻訳会社で露文タイピストとして働く傍ら、ツアーの添乗にも従事する。
 1991年、第15回すばる文学賞受賞の「予感」で作家デビュー。
 劇作品を思わせる空間構成の盛り上がりと、肌理細やかなキャラクター造形で、嘱望される新鋭である。
 他の作品に、北海道を舞台に、18歳の女性主人公の一夏の冒険と変貌の注目作「カーニバル」、連作集「リフレイン」がある≫


   彼女のエピソードが前掲のブログにある。

 ≪彼女は生涯独身を通した孤高の人だった。
 作家として、その芸術的な独自の感性を持っていた。
 彼女は妹と気が合って、中学・高校・それ以降とよくわが家に泊まりがけで遊びにきた。
 妹が作ったマリオネットの人形で劇団を作り、彼女は語り口が上手で主役の声を演じ人形を操った。
 児童館や保育園などボランティアで公演を重ねた時がある。
 団員が一緒に西伊豆小土肥浜の温泉で合宿したこともあった。
 秩父にハイキングに出掛けたこともあった。
 自分がかみさんと結婚した後も、わが家に遊びに来て、かみさんと意気投合し、一緒に食事に出掛けたようだ≫


 彼女の作品を見る。内容紹介は「Amazon」より作成。


  『予  感』(1991.12・集英社)

 ≪小説の愉しみにみちた世界へ! 双子の兄弟の間に漂う妖しい空気…。小さなパーティに集う人たちの絡みあう過去と現在が、春の日の短い時間の流れの中に映し出される。何かが起こるあやしい予感…。第15回すばる文学賞受賞作≫

  『カーニバル』(1992.10・集英社)

 ≪北の島。18歳の保護者なしのはじめての旅。民宿に滞在する絵子は、あっさりと恋におちる。短い夏の終わり、祭りの夜、少女の時がはげしく破られる――。すばる文学賞作家が少女の揺れ動く夏の思い出を綴る!≫

  『リフレイン』(1994.03・講談社)

 ≪友人、かやの結婚式に招かれたあゆみと真池。そこには大学時代から真池が思い続けていた桂詠二もいた…。6人の女たちが歌う、あの青春の夏の日々。結婚目前の女たちが、この10年を振り返る気鋭の6篇の恋愛連作小説集≫

  『ケンタウロス座』(1995.06・集英社)

 ≪地図にものらない辺境の空港で2人は10年ぶりに再会してしまう。これは偶然か、それとも運命なのか。渚の心は揺れる。男は思わせぶりな言葉を投げかける。半人半馬のケンタウロスは、対立する2つの心の葛藤の象徴だ。2人のケンタウロスが選んだ道は…。表題作『ケンタウロス座』をはじめ、揺れながらも次第に成長してゆく女性の心をとらえた『セルフポートレイト』『LESSON』の3作品を収録≫

  『帰ってきた黄金バット』(2006.09・集英社)

 ≪「黄金バット」と兄と仲間、そして私の旅。 1970年ニューヨークで「黄金バット」を上演し、みごとに成功をおさめた劇団・東京キッドブラザース。劇団員だった兄・永倉万治と仲間たちの足跡をたどり、その後の彼らの人生を通して、時代の輝きを描く≫


 私は一度、釉木さんにお会いしたことがある。

 私が友人の会社を訪ねたときに、釉木さんもお見えになって友人から紹介してもらった。

 兄・万治クンのことを聞いたり、私がまとめた永倉資料を見てもらったり、ひと時を過ごした。

 彼女は”ああそうなんだ”と関心を示しながら資料を最後まで熱心に見くれた。

 その時、彼女の本にサインをいただいた。

 それが彼女の形見になってしまった。

 彼女は『日経新聞』(06.11.5)の「あとがきのあと」で言っている。

 ≪数年前から戯曲を書こうと試みている。
 「自分の本が板にのったら、その時、本当の芝居の面白さがわかる気がする」≫

 彼女には目標があり、書きたいものがあった。

 それが突然、叶わぬ夢になった。

 とても残念であり、悔しく、哀しい。

 いまはただ、ご冥福をお祈りするばかりである。合掌。


  写真上は釉木淑乃(『ケンタウロス座』奥付より)

  挿図中は釉木淑乃の著作本の表紙
  (左から『予 感』、『カーニバル』、『リフレイン』、『ケンタウロス座』、『帰ってきた黄金バット』)

  挿図下は釉木淑乃のサイン


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